2016年6月20日月曜日

第1回 撮影機器とその原理を簡単に

一般X線撮影装置は、X線管の発明を機に急速に発展し、DEXAやCTなど、X線を利用したイメージング技術の礎となってきました。

そして、この装置を使うX線撮影検査では、
  • 患者さんへの"検査の"説明
  • 最適なツールの選択
  • 撮影条件の決定(kV, mAs, FFD, コーニング(照射野絞り))
  • ポジショニング
  • 画像処理
などの手順が実施されています。

レントゲンHow To!の第1回は、このX線撮影検査を探求するために、その機器と原理を振り返ることから始めていきたいと思います。

X線の大前提:電磁放射


レントゲンといえば、X線を発見し、自分の妻の手のレントゲン撮影をしたレントゲン博士が有名です。
このX線は、実はいろいろな光に関する研究で支えられていました。

X線撮影を理解するために、光を(少しだけ)知る必要があります。そのためにはまず電磁放射を知っておく必要があります。

電磁放射は、その名の通り、電界と磁界から構成されます。

電界と磁界のフィールドは正弦波で同位相です。つまり、振動のように両者は同じ時点でゼロを通過し、この振動が上下に1サイクルする長さを波長と言います。
この波長によって分類される光や電磁放射のその他の形態のひとつに、X線が含まれています。

電磁放射をキーワードに、およそ150年前からその歴史を振り返っていきましょう。

1865年、Maxwell博士が"A Dynamical Theory of the Electromagnetic Field"(電磁場の動力学的理論)を発表しました。この発表で、光は波であることが発見されました。

1895年、レントゲン博士がX線を発見します。

1900年、Max Planck博士は、光のエネルギーは不連続の量で放出または吸収されることを発表しました。これが、光エネルギーの量子化です。今現在、量子論と呼ばれているものの始まりです。重要なことは、プランク博士はエネルギーが光の周波数に関連していたことを認識したことです。今では、エネルギーが周波数に正比例することを意味するプランク方程式として知られています。

1901年、レントゲン博士が第一回ノーベル物理学賞を受賞します。

1905年、アインシュタインは光が質量と運動量を持っていること光電効果で示しました。これによって光が電子を変位させ、電流を起こすことを示しました。そして、光は粒子からなると考えました。

1923年、コンプトンは光が電子によって散乱することを示しました。

特筆すべきことは、マックスウェルは早すぎましたが、プランク、レントゲン、アインシュタイン、コンプトンは、それぞれノーベル賞を受賞しています。ものすごい偉人たちです。

今、病院で日常的に行われているX線撮影は、このような歴史的な偉業と基礎物理学に基づいて成り立っています。

このような背景を頭の片隅に置いて、本題に入っていきましょう。

撮影機器の原理


おおまかに、一般撮影で利用する機器は次のようなものがあります。一つずつ、簡単に見ていきましょう。

  • X線管と条件設定パネル
  • ブッキー撮影台( 臥位・立位)
  • グリッド・コリメーション
  • 受光系(IP/FPD)

X線管



高速の電子が金属ターゲットに当たったとき、X線が放出されます。電子ビームのエネルギーのわずか1%が、光子に変換されます。残りは熱に変換されます。この熱エネルギーを取り除くことは困難ですので、真空内部の熱に対する対策が必要になります。

陽極を大きくすれば、その分だけ熱を吸収することができますが、熱が効率よく伝導しなければアノードが溶け始めてしまいます。

これに対応するために、陽極を回転させます。電子が衝突するスポットを回転で移動させることで、連続的に電子ビームを異なる陽極に当てることができます。

これを実現するのは高真空が含まれているガラス管です。高真空でなければ、電子は空気の分子に衝突してエネルギーを失います。

このプロセスでは、陰極から陽極に30〜150キロボルトで加速された電子を放出します。

電子が陽極に達すると、金属中の電子と衝突し、減速されます。
減速した分のエネルギーは、X線として放出されます。

陽極の角度は、このX線が放出されるウィンドウに向けられています。

回転陽極X線管のまとめ

  • 陰極を電子を放出させるために加熱
  • 電子を陽極に向かって高電圧で加速
  • 高エネルギー電子が陽極に衝突し、1%がX線に
  • 陽極が融解しないように、陽極をモーターで連続的に回転
陰極から電子を加速させるエネルギーは、管電圧、管電流、照射時間で決めます。
(管電流と照射時間の積をmAs値といいます。)

この設定は条件設定パネルで行います。


(日立メディコ社製条件設定パネル)

ブッキー撮影台( 臥位・立位)


実際の撮影では、患者さんに撮影に必要な姿勢を保持してもらう必要があるため、撮影台が利用されます。


撮影台はX線管と一体になっており、画像を取得するためのカセッテを挿入できるようになっています。余分な散乱線を除去するためのグリッドも一体になっているものがあります。また、自動露出機構という、画像の信号強度を一定の濃度に保つための機構も備わっているものがあります。

グリッド・コリメーション


X線は被写体に衝突すると、被写体の分子にエネルギーを奪われ、消失します。この奪われたエネルギーの一部は非常に弱いX線を誘導します。これを散乱X線といいます。
この散乱X線は、一方向から透過されたX線とは無関係のものですので、一緒に受光してしまうと、画像のボケの原因となり、画像のコントラストの低下を引き起こします。

グリッドがない状態

グリッドを置いた状態
※余計なX線に歯止め

グリッドだけでなく、無駄に照射野を広げないようにするコーニング(照射野絞り)なども重要な手順です。

受光系(IP/FPD)


X線管に次ぐ非常に重要な部分です。
X線はイメージングプレートやフラットパネルディテクタで受光され、その信号強度をもとに、グレースケールの白黒レントゲン画像ができます。イメージングプレートの場合は、輝尽性蛍光発光現象を利用しているため、読み取り装置が必要になります。フラットパネルディテクタは、半導体でA/D変換し、有線またはWifiなどを経由してデータ処理装置に画像データを転送します。

小型X線管や高感度・高鮮鋭度受光系への期待


今現在、病院で利用されているX線管は数十年その原理やサイズが抜本的にかわったという印象がありません。しかし、研究の領域では、モバイルデバイスで撮影できそうなサイズのX線管の開発なども行われています。

また、X線を使う以上、医療被曝というものが付きまとうわけですが、受光系の放射線の感度が飛躍的に向上すれば、これまでよりも弱いX線エネルギーで撮影ができるようになるため、さらなる半導体などの受光機構が発展することも期待されています。

視点を変えて:放射線被ばくについて


X線の原理を少しお話しさせていただいているので、もう少し補足させていただきます。筆者は被ばくの専門ではありませんが、一般的に知られていることをご紹介いたします。

X線は電離(ionising)と呼ばれる放射線のクラスに属します。
これはその名の通り、原子および分子と相互作用し、それらの構造および機能を変更することができることを意味します。電離放射線は原子から電子を分離するのに十分なエネルギーを持っています。

電子を分離した結果、中性の原子または分子が正電荷を有することになります。

これが電解質(イオン)になります。イオンは中性分子とはまったく異なる挙動を示します。その主な理由は、水に可溶性になり、より反応性が高まるためです。

生物学的システムの中では、このような変化は、放射線病、がんまたは死を引き起こす可能性があるDNAの壊変による変異をもたらすことがあります。
この理由は、X線撮影技術の範疇を超えますが、おおまかにまとめると、DNAの変異が起こると、その細胞は、アポトーシスが遅延または妨げられることによって正常のコントロールから外れることがあります。あるいは、変異した機能が破壊されるように新しい細胞に変化します。

日焼けやUV照射によって引き起こされる変化もこのクラスに属します。ただ、X線はUVよりもはるかに高いエネルギーを有する光子ですので、その効果は比較的に大きいです。ただ、X線撮影検査で利用する範囲のX線では、一般的に考えて放射線障害は起こりません。
でなければ、医療で使われません。

ただ、実は陰ながら放射線技師などの専門職が、ごく微量の被ばくでも人体に影響がないかなどを調べることに協力したり、撮影に利用するX線エネルギーを最小にする努力をしています。

最後に


第1回は、撮影機器についてご説明しました。

X線撮影の原理を振り返ると、X線が発見されるまでも含めて、ノーベル賞をはじめ、すばらしい研究成果の上で成り立っている技術であることがわかります。

医療者から見ると、今はもう完成しているかのように思える(あって当たり前に思える)一般撮影技術ですが、歴史や原理を理解した上で、常識を疑って、根底から掘り返して、数式は改良してと、次の進化を起こすのは、今実際に開発や検査をしている技術者やメディカルスタッフのみなさんです。

第2回から、もう少しテクニカルなテーマである撮影条件について検討していきたいと思います。

2016年6月4日土曜日

はじめに

はじめに

一般X線撮影(レントゲン)は、もう50年以上の歴史のある検査となり、日本全国に広く普及している画像検査です。

このレントゲンは、一般的には、二次元の情報しか得られない影絵ですが、撮影機器の進歩によって、いろいろなことができるようになってきています。

このブログでは、画像の作成や処理を行う立場から、このレントゲンをテーマとして、レントゲンから見たさまざまな診療とのつながりをご紹介していきたいと思います。

目次
はじめに
第1回 撮影機器とその原理を簡単に
第2回 レントゲンの撮影条件の考え方
第-回 レントゲンによる医療被ばく(妊娠、胎児、子供、女性、男性)に対するモニタリング
第-回 頚椎のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 胸椎のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 腰椎のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 仙椎のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 尾骨のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 骨密度のレントゲン(整形外科シリーズ:脊椎編)
第-回 手のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 手関節のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 手根骨(舟状骨など)のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 手根管のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 手指のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 前腕のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 肘のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 上腕のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 肩関節のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 肩鎖関節のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 肩甲骨のレントゲン(整形外科シリーズ:腕編)
第-回 関節リウマチ評価のレントゲン(整形外科シリーズ:リウマチ編)
第-回 足のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 足関節のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 踵(かかと)のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 足趾のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 足底板のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 足の種子骨のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 下腿のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 膝関節のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 膝蓋骨のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 大腿のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 股関節のレントゲン(整形外科シリーズ:足編)
第-回 頭蓋骨全体のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 副鼻腔のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 眼窩のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 鼻骨のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 上下顎骨のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 顎関節のレントゲン(整形外科シリーズ:頭編)
第-回 骨盤のレントゲン(整形外科シリーズ:骨盤編)
第-回 腸骨のレントゲン(整形外科シリーズ:骨盤編)
第-回 仙腸関節のレントゲン(整形外科シリーズ:骨盤編)
第-回 肋骨のレントゲン(整形外科シリーズ:胸郭編)
第-回 鎖骨のレントゲン(整形外科シリーズ:胸郭編)
第-回 胸骨のレントゲン(整形外科シリーズ:胸郭編)
第-回 胸鎖関節のレントゲン(整形外科シリーズ:胸郭編)

第-回 乳房のレントゲン(産婦人科シリーズ:乳房編)
第-回 骨盤のレントゲン(産婦人科シリーズ:骨盤編)

第-回 聴器のレントゲン(内科シリーズ:めまい編)

第-回 副鼻腔のレントゲン(耳鼻科シリーズ:鼻ずまり編)